北朝鮮、中国、そして韓国へ
母として妻として貪欲に生き抜こうとする、
名もなき脱北女性の幸せのかたちとは
十年前、家族のため一年間だけの出稼ぎのはずが騙され中国の貧しい農村へ嫁として売り飛ばされた北朝鮮女性B(ベー)。憎むべき中国人の夫と義父母との生活を受け入れ、中国と北朝鮮の家族を養うため脱北ブローカーとなる。北朝鮮に残してきた息子たちの将来を案じた彼女は、息子たちを韓国へ脱北させ、自らも過酷な脱北の旅へと出る。命からがら辿り着いた韓国で、彼女を待ち受ける苦く辛い日々。生死を越えて彼女を追い詰める、母そして女としての葛藤。脱北者Bの人生に、安らぎは、幸せは約束されているのか。
この名もなき北朝鮮女性B(ベー)の生き様を記録したのは、フランスと韓国を拠点に映画製作し、これまでに5本の中短編映画がカンヌ国際映画祭に出品され、今最も注目される新鋭ユン・ジェホ。大胆で鋭く、ときに美しい映像で、中国と北朝鮮そして韓国に引き裂かれるBの分断の人生を、自らのアイデンティティへの疑問と闘いながら記録した。分断が分断を呼び、別離が新たな別離を生む皮肉――平凡な幸せを望みながら生き抜く中年女性の予想だにしなかった生き様に、心を根底から揺さぶられる。
ある日、マダム・ベーは中国で一緒に暮らす“家族”の元へとユン監督を招いた。そこでしばらく生活を共にする間、ユン監督に様々な疑問が湧いてくる。なぜ中国人の夫、そして家族がいるのか。なぜ危険を冒してまで脱北ブローカーをやっているのか。
マダム・ベーは言った。「私を記録しなさい」
間もなくマダム・ベーは、先に韓国へと脱北させた息子たちの生活を安定させるため、自身も中国から韓国へ渡ることを決心する。
戸籍のない彼女も脱北ルートを行くしかない。金正恩体制になり爆発的に増えた脱北する北朝鮮人たち。そのルートも政治状況により変化し続けている。かつてはモンゴル、ベトナム経由が一般的だったが、砂漠を歩く過酷さと国境警備が厳重になったことから、現在はラオスからタイを経由するルートが急増。マダム・ベーも辿った同ルートは比較的安全とされているが、運悪く逮捕される脱北者たちもいる。彼女らより2週間ほど後に同ルートを辿った人々は、逮捕され北送(北朝鮮へ送還)された。
タイを目指すルートでの脱北者は年間2,000人近く。彼らが命からがらバンコクの難民支援センターへ辿り着くと、まずは身元調査が行われる。そして受入れ可能な国のうちどの国へ行くか選択を迫られるが、脱北者の多くは同じ言語と食文化を持つ分断されてしまった自国、韓国での定住を希望する。バンコクに到着後、ユン監督は不法入国で強制送還、マダム・ベーは難民支援センターに収容される。
約10か月後の韓国で、ユン監督はマダム・ベーを捉える。それは地味な制服に身を包み、浄水器の清掃をする姿だった。清掃の仕事を終え、道端に停めたスクーターにもたれて蒸した芋を頬張る。そこには中国での逞しさ、強引さは微塵もない。かつて「いい生活をしている」と聞かされた韓国で、マダム・ベーは幸せではないのか。分断が分断を呼び、別離が新たな別離を生む。ユン監督の切り取る簡潔で繊細な映像が、マダム・ベーの生き様を残酷に際立たせる。
1980年1月5日、韓国・釜山出身。フランス、ナンシーのエコール・デ・ボザール、パリのアール・デコ、ル・フレノワで、美術、写真、映画を 学ぶ。2011年短編「約束」が、アシアナ国際 短編映画祭で大賞を受賞。2012 年ドキュメンタリー「北朝鮮人を探して」でメキシコ国債短編環境映画祭審査員スペシャルメンション賞を受賞。2013年台北映像委員会が制作したオムニバス映画に参加し、短編「豚」を 台湾の女性監督シンイン・チェンと共同で演出し、カンヌ映画祭監督週間、プサン国際映画祭に招待された。最新作の短編劇映画「ヒッチハイカー」は、韓国政府の統一部の出資で作られ、「マダム・ベー ある脱北ブローカーの告白」とともに、2016年のカンヌ映画祭監督週間で上映された。
KINOフライデーシネマ 011-231-9355 | 上映終了 | - |
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チネ・ラヴィータ 022-299-5555 | 上映終了 | - |
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深谷シネマ 048-551-4592 | 上映終了 | - |
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シアター・イメージフォーラム 03-5766-0114 | 上映終了 | - |
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シネマ・ジャック&ベティ 045-243-9800 | 上映終了 | - |
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名古屋シネマスコーレ 052-452-6036 | 上映終了 | - |
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京都シネマ 075-353-4723 | 8/11(土)~8/24(金) | - |
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第七藝術劇場 06-6302-2073 | 上映終了 | - |
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日韓映画文化交流研究会 第6回自主上映会 | 上映終了 | - |
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